「細胞内共生説の謎」2018年 | ||||||||
序章 | ||||||||
細胞内共生説は、ミトコンドリアと色素体(*)のそれぞれが、自由生活していた原核細胞に由来したと考える説である。現在は定説となっている。 (*)葉緑体、白色体(ロイコブラスト)、有色体(クロモブラスト)、エチオブラストなどのこと この説の大きな根拠は、ミトコンドリアと色素体にDNAが存在し、遺伝子の配列が細菌のそれと類似していることである。 |
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T 細胞内共生説の歴史的展開とそれをめぐる人々 | ||||||||
メレンコフスキーが最初に細胞内共生説を唱えたが、評価されていなかった。 しかし、分子生物学、分子系統学の発展により葉緑体とミトコンドリアが細胞内共生起源であることが定説となった。 冷戦の影響でロシア人であるメレンコフスキーは無視され、細胞内共生説を自説と主張するマーギュリスの業績となった。 |
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U 色素体の細胞内共生説の科学的再検討 | ||||||||
第6章 オルガネラの細胞内共生に関する現代の考え方 | ||||||||
シアノバクテリアと葉緑体は物質、構造、機能面で似ている。 更に、分子系統解析(*)から次の事が分かった。 (*)DNAの塩基配列やアミノ酸配列を比較することで生物の分類・系統を確定する手法 ・葉緑体がシアノバクテリアから派生した。 ・すべての葉緑体は単系統である。 ・色素体を持つ生物は特定のグループだけである。 ・色素体の細胞内共生については、主要なものは1回だけ起こった。 |
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第7章 葉緑体とシアノバクテリアの連続体と不連続体 | ||||||||
現在は、多くの生物のゲノムが容易に解読できるようになった。 モデル生物については、転写産物、タンパク質、代謝物のデータなども整備されてきた。 これによりシアノバクテリアと色素体の比較も詳細に可能となり、ゲノム情報からオルガネラの起源が単純な細胞内共生説では理解できないことがはっきりしてきた。 ・糖脂質合成系:糖脂質を合成する組織は両者共通の糖脂質からできているが、組織から糖脂質を合成する仕組みは異なる。 ※葉緑体の仕組みは酸素を発生しない光合成を行う緑色光合成細菌由来と考えられる。 ・脂質合成系のその他の酵素:葉緑体の膜を構成する脂質を合成する酵素系の大部分がシアノバクテリア由来ではない。 ・脂肪酸合成酵素:シアノバクテリアまたはその祖先由来と判断される多くの酵素が葉緑体で使われている。 ・色素体のDNA複製酵素:シアノバクテリアは複雑なDNAポリメラーゼVを使い、葉緑体は単純なDNAポリメラーゼ(POP)を使う。 ・遺伝子発生系:色素体とシアノバクテリアでは大きく異なる。 ・ペプチドグリカンの由来:シアノバクテリア由来のものは少ない。 ※ペプチドグリカンは細菌の特徴である。 ・膜構造とDNA複製から見た葉緑体とシアノバクテリアの関係:両者には多くの相違がある。 |
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第8章 「細胞内共生」という事象の再検討 | ||||||||
葉緑体を構成するタンパク質や脂質は細胞核の遺伝子に依存している。 細胞内共生説では、共生体が遺伝子を宿主に預けたと考える。 しかし、対象となる遺伝子にはシアノバクテリア由来ではないものも多い。 色素体形成の経緯は色々考えられるが、決め手はない。以下に筆者の仮説を述べる。 ・脂肪酸仮説:アーキアから真核生物への進化で膜を構成する脂質の種類が変化し、細菌を捕食することが必須となった。 ・宿主主導説:葉緑体の膜の由来はシアノバクテリアではないことは事実である。 宿主細胞が、@糖脂質の膜にシアノバクテリアを取り込み、A糖脂質を供給することで逃げられなくしたといったことが想定できる。 ・複合一時共生説:単にシアノバクテリアの一種が真核細胞に入り込んで葉緑体のもとになったのではない。同時に多数の遺伝子の導入が行われ、葉緑体ゲノムにも及んだ。 |
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終章 細胞内共生説とは何か | ||||||||
定説となった細胞内共生説を否定するのは困難なのでバイアスがかかりがちである。 だが、細胞内共生説の根拠は意外に脆弱である。 |