「生き物たちの情報戦略 生存をかけた静かなる戦い」2007年
第1章 多様な生き物たち
 光合成を行う生物を独立栄養生物、ほかの生物を栄養源とする生物を従属栄養生物と呼ぶ。
 生物は、5界説(モネラ界(原核生物)、原生生物界、植物界、菌界、動物界)で整理できる。
 界は門、綱、目、科、属、種の階層として分類できる。
 「種とは、相互に交配しうる自然集団で、かつ別の自然集団から生殖的に隔離されているもの」と定義される。
 46億年前に地球が誕生した際には生命はいなかったが、35億年前には原核生物が誕生した。
 真核生物は大きいのでエンドサイトーシス、エクソサイトーシス、細胞内小器官の膜系の利用、細胞骨格といった様々な工夫が必要である。
 シアノバクテリアが大量の酸素を放出したので、酸素を利用できる生物が出現した。
 真核生物は、ある種の原核生物を取り込んで、ミトコンドリアや葉緑体とした。
 やがて、細胞同士が相互依存関係を持ち、役割分担する多細胞生物が出現した。
 全球凍結を契機に少ない栄養源を効率よく獲得できることが必要になり、エディアカラ紀(6億2000万年〜5億5000万年前)に顕著な移動性をもつ動物が現れた。
第2章 生き物はいかに多様化したのか
 真核生物が多細胞生物となり運動性をもつと、前後軸という体軸が形成される。
 カンブリア紀に生物が堅い骨格を備えた結果、運動の速度を高めた。
 カンブリア紀には「食う食われる」という食物連鎖が発生した。
 多様な生物には類縁関係があり、自然淘汰、遺伝の法則により進化してきた。
 遺伝情報の配列が突然変異することで、多様な生物が生み出された。
第3章 生物がもつ時計ー多様な生物の共通性
 地球上の多様な生物には、共通の設計原理がある。例:概日リズム
第4章 多細胞生物の設計原理
 設計原理は「細胞の役割分担、ホメオスタシス、ミトコンドリア作るATPを生体エネルギーの通貨としていること」などである。
 エネルギーの大元は太陽であり、葉緑体で太陽エネルギーを使ってATPが生産され、それを使って有機物を作り出し、その有機物を使ってミトコンドリアでATPを生産し、そのATPを使って最終的に様々なエネルギーとして利用している。
 また、感覚上皮細胞と筋細胞を結ぶ神経細胞が生まれ、これが前方に集中するようになった。
第5章 生き物たちの存在様式
 葉緑体が太陽エネルギーと二酸化炭素から有機物と酸素を作り出し、ミトコンドリアが有機物と酸素を使ってエネルギーを獲得して二酸化炭素を放出するという流れは地球上のすべての生物を食物連鎖という形で結びつけている。
 ※植物など光合成を行う生物を独立栄養生物、生産者とよぶ。
 ※植物を主食とする動物を草食動物とよぶ。
 ※草食動物を食べる動物を肉食動物(一次消費者)、それを食べる動物を二次消費者とよぶ。
 ※この食べる食べられる連鎖を食物連鎖とよぶ。
 ※実際には、生物群集の関係は複雑だが、一般には簡単な連鎖を見つけだすことができ、これを骨格的食物連鎖とよぶ。
 ※遺骸や排泄物などを分解する分解者もいる。  
 ※(10%ルール)太陽エネルギーの2%が光合成に利用され、そのエネルギーの10%を草食動物が食べ、そのエネルギーの10%を一次消費者の肉食動物が得る、その10%を二次消費者が得る・・・という順の食物連鎖で、各層間のつながりが10%の割合になっている。
 食物連鎖における個体群の関係は、個体群の生存に影響を与え、生物の進化に関わりをもつ。
 生物相互作用の研究を生態学という。
 ※生物は「個体>個体群>生物群集>生態系>生物圏」の階層で考えられる。
 ※動物の個体の分布には、集中分布、一様分布、ランダム分布の3つがある。
 ※個体群の単位空間あたりの個体数のことを個体群密度とよび、資源、制約要因によって変動する。これは生存価(生存や繁殖を助ける機能や特性)に影響を与えないので進化には 直接結びつかない。
 ※個体群には最適密度があり、密度が個体の形質に影響を与える密度効果というものがある。
第6章 生き物たちの情報戦略
先カンブリア時代が終わり真核生物が現れると食う食われるの世界になった。
ここでは、より効率的な情報戦略をもったものが生存の確率を上げた。
従属栄養生物は環境を知り、働きかける行動することで生命の維持し、子孫を残すことができる。
原核生物も真核生物もセンサー(例:光受容体)を発達させてきた。
多細胞生物のセンサー部は感覚器官ともよばれる。
※5感以外にも平衡器官や自己受容器などがある。
感覚器官の基本となる感覚細胞は特定の刺激のみを受容する。
どれも精巧だが、カンブリア紀の大爆発前後に急激に現れ、「食う食われる」の関係から爆発的な多様化を導いた。特に眼は重要。
感覚器官の設計はよく似ている。例:感覚受容分子の構造、感覚受容細胞の集中とその量の多さ動物の行動は、感覚器から情報処理を経て効果器までの一連の流れの中で行われる。
動物の行動を反射、走性、本能、学習、知能という5つの階層に分けることがある。
行動の5つの単位は進化の段階に対応しているように見える。
しかし、これは、系統発生のそれぞれの枝の部分でいえることで神経系の設計原理が分かれた段階で、動物群は独立に行動を進化させている。(例:タコとヒト)
ただし、「生物の基本設計原理」と「食う食われるなどの個体間の相互関係」は共通である。
設計原理の共通点:「設計図が遺伝子」、「行動を構成する基本単位は感覚器・情報処理器・効果器」、「素材としての神経細胞」。
このため、別の進化の枝でも似てくる。
環境の激動期により適応力の高い情報処理機構をもったものがニッチを拡げる。
第7章 驚異のナビゲーション能力
個体群の維持に働く重要な関係は「食う食われる」だけでなく、「親子の間の保護活動」、「同種と交配する」といったこともある。これらの行動を支えるため、情報処理能力が複雑化した。
例えば、動物のナビゲーションには「経路統合システム」、「経路追随システム」、「地図基盤システム」3形態があるがどれも精巧である。
生物種の採る戦略は次のように二分できる。
 rー戦略:出産する量を多くして個体群の生存確率を上げる
  個体サイズが小さく、寿命が短く、成長が早く、養育をしない。
  「食う食われる」の関係の情報処理と同種と交配するための情報処理が要る。
 K−戦略:制限要因の環境の収容力を上昇させてこの数を少なく生み、生存確率を上げる。
  個体サイズが大きく、寿命が長く、成長が遅く、養育をする。
  「自分の子を他個体から見分ける」、「自分の子のために他個体を餌として持ち帰る」という能力も要る。
第8章 生物がつくりあげる世界ー環世界
生物の情報処理は固有の情報世界をもつが、これが環境と関係をもっているので環世界と呼ぶ。
感覚器官→情報処理器官→効果器の流れ全体を情報処理システムと考えると、感覚器官で受容された外界からの情報が、感覚器官と情報処理器官によって修飾されて効果器で出力されると考えられる。
感覚器と情報処理器官が似ていると効果器の出力が同様なので、行動が予測通し易い。
多細胞動物の情報処理システムの進化の契機は次の通り
 @体軸の形成による進行方向の決定
 A感覚(情報入力)器官と脳(情報処理器)の前方集中
 B体の一部が堅くなることによる移動速度の上昇と
  その速度に対応できる神経系の複雑化を伴う情報処理のスピードアップ
※特に、生殖活動、親子関係に伴う情報交換が重要
刺激に対する行動だけを観察しても、種特有の環世界は理解できない。
※環境:生物の外界に存在する全てのものをいう。
※環世界:情報システムをとおして内界に形成された環境
感覚受容器が感じることができ、情報処理系が知ろうとし、知ることができるものだけが環世界である。以下に例を挙げる。
・ヒトは可視光線しか見えない。昆虫は紫外線も見える。
・色を弁別するのは脳を含めた高次な神経系で達成される。
・ヒトは注意を向けることで情報を抽出できる。(カクテルパーティー効果)
・意識にのぼらない世界:平衡覚、自己受容器、思考の詳細など
第9章 環境への適応戦略
 環境は生物の情報処理器に変化をもたらす。
 雌雄差と成長段階によりみている世界、つまり、環世界が異なる。
 環世界の理解には次の3つを調べる必要がある。
  @種の設計原理、Aその進化学的関連、Bそれに基づく行動と環境の関連
 そのためには、生理学的研究、比較生理学的視点からのアプローチが有効である。
 また、 「適応的」「合目的的」ではない行動も環世界の理解には大切だ。
 環世界の理解は役に立つ。
   例:殺虫剤を使わない殺虫方法=ツェツェバイへの青色のトラップ
 ヒトでも文化により環世界が違う。
第10章 環世界と文化的行動
環世界が決定する種特有の行動は生存価に影響する。
一方、社会的行動を営む生物は遺伝子の支配を超えた世界、文化をもつ可能性を秘めている。
挨拶行動はヒト以外にもあり、無用の闘争を避ける機能をもっている。
種の垣根を超えてある程度理解できるのは、情報処理系に共通な部分があるからかもしれない。
挨拶行動は習得的でもあり、生得的でもある。(例:ヒトの笑顔)
多くの生物は、一代限りの学習をして、自分自身の生存の可能性を上げることができる。
ヒトのように社会性をもち、何代もの学習ができると文化(地域集団によって規定された行動様式)が形成され、これが情報処理システムを変容させるようになる。
文化を理解することは大事だ。
地球誕生以降、生物は進化してきた。生存を左右するのは個体の行動様式であり、これを決めるのが種独自の情報処理系である。
この情報処理系が形成する環世界を理解することが重要である。
また、ヒトなどでは文化が行動を左右するのでこれも重要である。