「植物が出現し、気候を変えた」 (THE EMERALD PLANRT(How Plants Changed Earth's History))2007年 |
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はじめに | ||||||||
この本では、植物の進化について、その刺激的な役割を明らかにする。 | ||||||||
第1章 葉、遺伝子、そして温室効果ガス | ||||||||
陸上植物の進化 葉は地上を覆う植物の太陽光の集光装置である。 植物が上陸した際(4億6500万年前)には、葉を持っていなかった。 維管束植物が登場(4億2500万年前)しても葉はまだなかった。 葉が広まったのは3億6000万年前になってからである。 二酸化炭素の影響 遺伝子的には葉の形成が準備されていたが、実際には、4億年から3億5000万年前の間に 二酸化炭素の90%下がったことで葉が進化した。 二酸化炭素と葉の関係 葉は光合成の材料である二酸化炭素を吸い、水を排出する。 このため、二酸化炭素が減ると気孔が増える(逆も真)。 ※植物は、体内の信号のやりとりで気孔の数を制御している。 |
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二酸化炭素の濃度 | 気孔の数 | 水の排出 | ||||||
増 | 減 | 減 | ||||||
減 | 増 | 増 | ||||||
二酸化炭素濃度が下がらないと、気孔による蒸散で葉を充分冷やすことができない。 その後の進化 根、茎、葉が進化するにつれ採れる体制に幅が出来た。 例えば、根が多くの水を吸い上げできるので、暑い地域でも多くの気孔を持つ大きな葉を冷やす ことが出来るようになった。 ※初期の植物が葉を持っていたら葉の温度が上がってしまっただろう。 二酸化炭素の低下の原因 長期的炭素サイクル(重要単語参照)はサーモスタット機能(重要単語参照)を持っている。 この一要因である風化速度を植物が速めた(根や葉の働き)ことで二酸化炭素を減らした。 やがて、寒冷化で風化速度が遅くなり、二酸化炭素減少を止めた。 |
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第2章 酸素と巨大生物の「失われた世界」 | ||||||||
3億年前の石炭期の化石からは巨大な昆虫(、植物や動物)の存在が分かった。 巨大昆虫が飛べたのは、酸素の濃度が高く、当時の大気圧が今より高かったからである。 酸素濃度が高かった理由(長期的には) 酸素量と地殻の循環(重要単語参照)、硫黄の循環(重要単語参照)で説明できる。 酸素濃度の変遷 岩石存在量法、原子量存在量法(炭素と硫黄の同位体量を測る)、琥珀による空気の化石 による測定から約3億年前に上昇し35%。2億年前には15%であったことが確認された。 白亜紀にも小さな波があるが、この2つの期間を除けば安定していた。 酸素濃度が高かった理由(植物の影響) 石炭紀のはじめまでに植物がリグニンで体を支えられるようになった。 湿地帯で植物が枯れても、リグニンを分解する能力を持つ生物がいないため泥炭化し、 酸素濃度は高まった。その後、微生物も菌類もリグニン消化できるようになった 酸素濃度が大きい環境での生物 生理的制約が緩くなり、昆虫などの動物が巨大化できた。 酸素濃度が下がった時 ペルム紀の終わりには酸素不足があり、これが大絶滅の原因とも考えられる。 |
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第3章 オゾン層大規模破壊はあったのか? | ||||||||
オゾン層とは オゾンは酸素原子が3個からなる反応性の高い分子である。 オゾン自体と酸素に紫外線が働きかけることで生まれたり壊れたりする。 オゾン層は海抜15キロから50キロの間に存在し、紫外線から生物を守っている。 ペルム紀末(2億5100万年前)の大滅滅はオゾン層消滅が原因か? オゾン層は脆いとはいえ消滅の可能性は低いと思われてきた。 だが、異常なヒカゲノカズラの胞子や異常花粉の化石が世界中から見つかり、これらが オゾン層消滅による紫外線Bの影響との主張がされた。 オゾン層消滅の原因 オゾン層消滅可能性は高く、その原因の有力候補は以下の通りである。 ・シベリア・トラップと呼ばれる玄武岩を吹き出した噴火の影響 成層圏に塩素を突入させた、岩塩層と岩石を溶岩で熱し特殊な物質を作った。 ・メタンの大量放出(温暖化の影響) ・世界の海洋循環の停滞 オゾン層消滅による紫外線Bの植物への影響 紫外線Bが強まると植物の遺伝子の安定性が弱まり、胞子または花粉の突然変異を促す ことが確認された。 この説の確認のため、直接オゾン層の濃度を測る努力も続いている。 |
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第4章 地球温暖化が恐竜時代を招く | ||||||||
三畳紀末の大絶滅直前の状況 パンゲア超大陸が2億5000万年前にできた。 大き過ぎて海による温度の安定化が働かないため、強烈な大陸性気候が発達し、大陸の 生物は極端な環境を堪え忍んでいた。 当時の気候(植物化石から分かること) 気孔の減少から二酸化炭素の増加が示唆された。(数十万年の間に3倍となった。) また、葉の形状が大きな葉から小さい葉や細かく分かれた葉になったことからも、二酸化炭素 濃度と気温の上昇が分かる。 二酸化炭素増加の原因 2億年前に、パンゲア超大陸の大陸プレートの下に湧いた異常に熱いマントルプルーム(※) が、中央大西洋マグマ分布域を作り、大量の溶岩が20〜30万年の間に吹き出した。 ※地球の奥深くから熱い物質がマントル内の細い通り道を抜けて柱のように噴出すること。 熱い核と薄い地殻の間の対流とは異なる。 これが二酸化炭素や亜硫酸ガスを吐き出した。後者は硫酸雨となり大気からは除かれた。 |
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同位体構成の謎 三畳紀とジュラ紀の境界の葉の化石ではC12(軽い同位体)が急増している。 これは噴火だけでは説明できない。 @噴火による二酸化炭素の同位体の割合は大気と同じ、A噴火による二酸化炭素排出は 時間がかかるので、その間に、「長期的炭素サイクルのサーモスタット機能」(重要単語参照) が働いてしまう。 C12増加の原因はメタン生成菌 菌が作ったメタン(C12が豊富)は海底でメタンハイドレードとなっている。 これが温暖化で放出される二酸化炭素になった。 シナリオ再現(三畳紀末)(5500万年前の暁新世の絶滅と同じ) パンゲア超大陸が温暖化、乾燥化>中央大西洋マグマ分布域で噴火(数十万年で大量の 溶岩を噴出)>亜硫酸ガスが酸性雨をもたらし、二酸化炭素が温暖化をもたらす> ガスハイドレードからメタンが放出>海が酸性化>珊瑚礁や石灰質プランクトンの危機 >温暖化のさらなる進行>海の無酸素化>絶滅と適応した生物の多様化 三畳紀末の大絶滅の原因は二酸化炭素濃度の上昇による温暖化だと分かった。 温暖化は原始的な爬虫類を駆逐し、恐竜が勝者となる道を開いた。 ※絶滅からの回復:長期的にはサーモスタット機能で環境が回復した。 |
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第5章 南極に広がる繁栄の森 | ||||||||
昔、極地は暖かかった。 化石、過去の地磁気による判定から極地に森があったことが分かった。 極地の冬は長く、暗いので、光合成は不可能だが、化石の年輪から極地林は潤沢な二酸化 炭素によって暖かくなった気候を満喫していたことが分かる。 落葉樹しかない? 北極ではメタセコイアなど落葉樹が多い。このため、「長く、暗い冬を乗り切るため落葉樹が 進化した」との説が支配的になった。 しかし、この説は次の理由から誤っていることが分かった。 ・常緑樹が冬に呼吸で失う炭素より落葉樹が葉を落とすことで失う炭素の方が多い。 ・南極とニュージーランドから高い頻度で常緑樹の化石が見つかった。 落葉樹は短いが暑い夏に成長が速かったので、極地に繁茂できたと考えられる。 極地の森では、火災が多かったので成長の速い落葉樹に有利な面もあった。 |
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落葉樹林と常緑樹林の違い | ||||||||
落葉樹林 | 常緑樹林 | |||||||
地表の 温度 |
低い | 高い | ||||||
積雪有 | 積雪無 | |||||||
有利な 土壌 |
肥沃 | 砂地 | ||||||
必要な養分多 | 必要な養分少 | |||||||
凍結干ばつ無 | 凍結干ばつ有 | |||||||
凍結干ばつ:地上では蒸散、根は凍っている状態 | ||||||||
肥沃な土地は、冬に凍り易く、溶け難い。 | ||||||||
※落葉樹林では落ち葉が土壌を肥沃にする面もある。 | ||||||||
来るべき地球温暖化への影響 温暖化>高緯度地方の降雪減る>土壌は冷える>凍結干ばつに強い落葉樹有利 温暖化>夏の土壌は暖まる>微生物の活動が増す>土壌は肥沃になる>落葉樹に有利 結論:落葉樹有利なので温暖化を和らげる効果がある。 |
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第6章 失楽園 | ||||||||
始新世(5000万年前)の気温 始新世前期は暖かく、その後、急速に寒冷化に向かい、両極が凍った。 温暖化の理由 海流や二酸化炭素では説明がつかず、メタンなどの温室効果ガスを考慮する必要がある。 海流 表層流については必要な活発化が大き過ぎて説明できない。 エルニーニョ(重要単語参照)については、当時の海洋の温度構成から可能性が低い。 二酸化炭素 現在の8倍の濃度が必要なので十分に説明できない。 他のガス 大気に占める割合は小さいが、メタン、オゾン、亜酸化窒素が合わされば影響大。 メタン 二酸化炭素増加>植物が吸い上げる有機物増加>メタンガス増加 メタンはやがて最強の温室効果ガスである水蒸気や二酸化炭素に変わる。 亜酸化窒素 微生物由来が多い。正のフィードバック効果がある。 オゾン マツやユーカリが出す揮発性有機化合物に太陽光があたるとオゾンが発生する。 その他のガスの影響を加味してシミュレートしたところ温室効果が大きいことが分かった。 ※極地では雪がなくなると影響が増幅される。極地に雲ができて熱を宇宙に逃がさなくなった との説もある。 なぜ温暖化が止まった? 5000万年前、ヒマラヤ山脈が形成され、岩石の化学的風化が盛んになったことで二酸化炭素 の濃度が下がった。 |
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第7章 自然が起こした緑の革命 | ||||||||
光合成 植物がどのように日光を操って二酸化炭素からバイオマスを合成するのかは謎だった。 この謎は炭素14の発見が契機となり解かれた。 植物が二酸化炭素を3つの炭素原子からなる化合物に変え、それが有機酸(その後、糖に なる)を作る生化学回路に放り込まれることが明らかになった。 この回路では酵素ルビスコが触媒として働く。 C4植物 サトウキビ、トウモロコシなどがC3植物とは違う光合成を行うことが発見された。 このC4光合成経路では、光エネルギーを使った二酸化炭素ポンプが、外界の10倍の濃度 にまで二酸化炭素を集め、酵素ルビスコのまわりに送り込んでいた。 光合成心臓部の酵素ルビスコは二酸化炭素の濃度が低いと酸素と反応してしまい効率が 悪いという欠点がある。 C4植物の進化の時期 化石、分子時計では時期を特定できないが、仮に3000万年前を採ると最近のことである。 飢餓説 草食哺乳類の歯に残る植物由来の同位体による計測で、C4植物が世界各地で800万年頃 主役になり、急激に森林をサバンナや草原に変えたことが分かった。 このことから「二酸化炭素が少なくても、水を保持(気孔を閉じる)できるC4植物が有利と なったことでC4植物が繁栄した」との二酸化炭素飢餓説が有力になった。 しかし、その後、既に1600万年から500万年前の間で二酸化炭素濃度が低かったことが 分かった。 C4植物進化の理由 二酸化炭素が減ることがきっかけでおきる事象(※)のつながりが草原の拡大に荷担した。 ※気候の変化:チベット高原の隆起で乾燥が進み、森が徐々に衰退した。 火事:森の衰退につながり、火事を起きやすくする。 また、火事による煙は雲をでき難くする。 等々 |
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C4植物の登場が遅い理由 不明である。 C3植物に部品が揃っているためか、何度も独立して進化たことが分かっている。 あるいは、石炭紀に1度進化していたかもしれない。 |
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第8章 おぼろげに映る鏡を通して | ||||||||
植物生理学と古植物学を一体化させれば、植物化石に新たな存在意義を与えられる。 植物自身が自然を変える大きな力となりうる。 |
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★重要単語 | ||||||||
短期的炭素サイクル | 第1章 | |||||||
植物は光合成で二酸化炭素を取り込み、死ぬと分解され二酸化炭素を大気に戻す。 これが数年から1万年くらいの時間をかけて二酸化炭素量を調整する。 |
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長期的炭素サイクル | 第1章 | |||||||
百万年のタイムスケジュールで地球の陸生生態系のもつ炭素の数百倍の量を循環させる。 火山の噴火>地殻から二酸化炭素が出る>雨に溶け炭酸を形成>ケイ酸塩岩を溶かし(=二酸化炭素を消費)各種イオンを川に流す(風化)>海では海洋生物が体の殻を作る>堆積物となる>数百万年かけて大陸プレートの下に潜る>高圧下で二酸化炭素となる>初めに戻る。 |
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長期的炭素サイクルのサーモスタット機能 | 第1章 | |||||||
風化の早さのポイントは温度 暖かい:風化は加速・・・二酸化炭素は減る>涼しくなる 涼しい:風化は減速・・・二酸化炭素は増える>暖かくなる (時間がかるので人間による温暖化を鎮めるのは無理) 金星と火星は、太陽との距離、プレートテクトニクスがないことでこれが働かない。 |
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酸素量と地殻の循環 | 第2章 | |||||||
植物や微生物は光合成により酸素を放出する一方、枯れる時には、分解され酸素を消費し、二酸化炭素を放出する。 しかし、僅かな植物は分解されない(寒冷地での泥炭化や堆積など)ので、ややバランスしておらず酸素は大気中に増える。 (ただし、何百万年もかかる。) ※ちなみに、堆積物は堆積岩となり地殻に埋められるが、隆起すると地表に現れ、風化して酸素を消費する。 |
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硫黄の循環 | 第2章 | |||||||
嫌気性で植物を分解して硫化水素を作り出す細菌は、分解に酸素でなく硫黄が使うので、その分、酸素が増える。 | ||||||||
エルニーニョ | 第6章 | |||||||
太平洋東部が暖かい。 西向きの貿易風が弱まり、温かい水が西から東に流れる。 海水が温かいため空気中の熱は行き場をなし、地球全体が暖かくなる。 |
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ラニーニャ | 第6章 | |||||||
太平洋東部が冷たい。(南米沖の海底から冷たくて養分に富んだ水が湧き上がる。) 貿易風が太平洋西部の暖かい水を停滞させる。(東部、西部で海面が1メートル違う。) 東太平洋は熱帯の空気から熱を吸収し、それを深い層に沈める。 |