「微生物が地球をつくった(生命40億年史の主人公)」(Life's Engines)2015年 | |||||||||||
プロローグ | |||||||||||
地球規模の微生物的な過程の成立、自然均衡の制御、その過程への人類の干渉について説明する。 | |||||||||||
第1章 見えない微生物 | |||||||||||
微生物は見えないため、進化論の物語からは見過ごされてきた。 | |||||||||||
第2章 微生物登場 | |||||||||||
微生物は顕微鏡が出来たことで発見され、次第に実体が明らかになった。 リボソームを全ての生物が持つことから共通祖先がいることが推定されている。 また、生物は細菌、古細菌、真核生物に3分類されることが分かった。 |
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第3章 始まる前の世界 | |||||||||||
炭素やウランなどの同位体による年代測定でも、生物誕生の年代は確定出来ていない。 太古の微生物の様子は黒海の深海にいる微生物に似ていると思われる。 |
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第4章 生命の小さなエンジン | |||||||||||
細胞の中には複数の種類のナノマシンがある。 その1つリボソームは極めて古いものであり、全ての生物が持つ。 それ以外に核、葉緑体、ミトコンドリア、ゴルジ体等があり、これらの構造を持たない原核生物 も存在する。 リボソームはタンパク質と核酸からなりDNAの情報を基にアミノ酸からタンパク質を作り出す。 ただし、アミノ酸を合成するには、ATPがもたらすエネルギーが必要である。 ATPは3つのリン酸基のうち1つ失うとADPとなりエネルギーを生じる。 このエネルギーがタンパク質合成などの生命の基本的活動に使われる。 ATPは共役因子(ミトコンドリア、葉緑体)によって大量に作られる。 共役因子は陽子を用いてADPとリン酸を結合させてATPを作る。(逆にも動作可能。) この仕組みを動かすには電気的勾配を生み出すことが必要で、太陽光から葉緑体の光合成 で得られるエネルギーが大元である。 光のエネルギーを化学エネルギーに変えるナノマシンは「反応中心」と呼ばれる。 光合成では光は特定の分子(葉緑素など)に吸収され、電子を1個押し出す。 (この時、反応中心は赤い光を出す。) 葉緑素(など)は手近な分子から電子を奪い、その結果、得られた陽子が貯まりATPを作る ための超小型電池となる。 これが共役因子を経ると陽子は電子と再会し水素となり、大型の分子NADPに組み込まれて、 これをNADPHに変える。光合成生物ではこの水素は最終的には二酸化炭素を糖に変える ことでエネルギー源となる。 反応中心が動作する時、音や光を出すので、これを解析することでエネルギーの変換効率や 動作の程度を知ることが出来る。 |
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第5章 エンジンのスーパーチャージャー | |||||||||||
藍藻類(シアノバクテリア) 植物登場(4億5000万年前頃)以前は酸素の多くが藍藻類の光合成で水から作り出されて いた。 その光合成反応中心の成立過程 @紅色非硫黄光合成細菌由来:光で水素ガスを陽子と電子に分け糖を作る。 A光合成緑色硫黄細菌由来:光で硫化水素を分解する。 その後、@に4つのマンガン原子を含むタンパク質が加えられ、更に、葉緑素に色素を変える ことで、水を高エネルギーで分解できるようになった。Aも変化して酸素があっても動作 できるようになった。 |
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その仕組み @:光は水の水素から電子を取り出す A:光は電子を強く押し出す フェレドキシンという分子:陽子と出会い、NADPHを作る。 NADPHの水素は二酸化炭素を有機物にするのに使える。 この酸素発生型光合成装置は地球の歴史で1度だけ進化した。 微細化石の研究では、藍藻類の光合成の成立時期は特定できていないが、硫黄の同位体の 分析から次のようなシナリオが想定されている。即ち ・藍藻類が酸素を大量に生産したことで24億年前にオゾン層が出来た。(大酸化事変) ・それ以前には、紫外線が火山からの二酸化硫黄を無差別に分解していた。 ・このため、24億年以前では硫黄の同位体構成はでたらめ。 ・それ以後では質量が軽いほど化学結合している。 ※これが起きた当初の酸素濃度は1%程度だった。(動物の進化は無理) |
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酸素の増加 現在は酸素濃度は安定しており少なくとも何十万年も不変である。 これは光合成による酸素生産と呼吸による消費がバランスしているからである。 微生物のみだった24億年前には、呼吸する微生物が僅かずつ海底に埋もれ岩石に合体し、 バランスが徐々に崩れたことで酸素が増えた。 酸素が増えるのに、何億年もかかったのか理由は解明されいないがBが有力。 @海での酸素と鉄や硫黄との反応、A硫化物酸化細菌が硫酸基のため酸素を使う、 B酸素は微生物がアンモニウムイオンを硝酸イオンに変えるため消費されていた。 ミトコンドリア 酸素は反応性が高く危険。この制御のためにはミトコンドリアの進化が必要だった。 酸素から得られるエネルギーは巨大で嫌気性呼吸方式に比べ18倍のATPが得られた。 生命のターボチャージャーとも言える。 微生物ナノマシンの進化は地球全体を「水素を炭素、窒素、酸素、硫黄の間を行き来させる」 元素の流れを生んだ。 スノーボールアース(大酸化事変から2億年後発生) 大気中に蓄積された酸素が温室効果ガス(メタン)を減らしたことで起きた。 メタンを主に作っていた古細菌が嫌気性で、酸素中でもメタンを消費する生物が進化した。 最後のスノーボールアースは7億5000万年前だった。 |
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第6章 コア遺伝子を守る | |||||||||||
ナノマシン製造のための指示書 遺伝子の形で書かれている。遺伝子は4つのデオキシリボ核酸分子からなる配列の集合である。 全ての生物がタンパク質を作るための指示書として使っている。 タンパク質は20種類のアミノ酸が特定の順番で並んだものだ。 特定の順番に並ぶ3つ1組のデオキシリボ核酸が特定のアミノ酸に対応し、それが何組か 並んでリボソームでタンパク質として組み立てられる。 タンパク質は生物がエネルギーを生成し、複製するためのナノマシンを作るために使われる。 種の中のばらつき 種とは動植物間で有性生殖可能な範囲と定義されている。 種の中のばらつきは種の中での競争で淘汰され、やがて種をはみ出すまでに進化する。 有性生殖ではこの方法で継承が進むが、他の道もある。 複製を行う際に、紫外線などの影響で狂う(突然変異)を起こす場合がある。 その間違いの大半は生きるための能力にはあまり影響がない。 有利な突然変異の場合、選択有利性を得たと言われる。 このようなランダムな間違いが多様性をもたらしている。 コア遺伝子 遺伝子の種類は多く機能が分からないものも多いが、枢要なナノマシンの非常に特殊な成分 に対応する遺伝子はほとんど変化しない。(複製誤りが致命的) このようなタンパク質は呼吸、タンパク質合成、ATP作り、窒素固定、メタン生産といった機能 に関わるものが含まれる。このようなコア遺伝子は1500ほどしかない。 例 酸素を生産する光合成生物全ての反応中心にあるD1タンパク質、電子を輸送し、陽子を 窒素ガスに与えるニトロゲナーゼ、酸素生成光合成生物などで二酸化炭素の固定に関与 するルビスコ ※ルビスコは効率が悪いが、生物は改善することなく、大量に作ることで対処している。 コアとなる装置は、他の部分への影響が大きいので、進化できなかった。 |
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水平伝播 コア遺伝子は生命の系統樹全体に分布しているが、これは水平伝播のせいである。 微生物では主要な、この過程は速い。(例:抗生物質への耐性を得るのが速い) 微生物の水平伝播 ・形質転換:遺伝子(DNA)が環境から拾い上げられる。 ・ウィルス:ウィルスがDNAやRNAを注入。 ・接合:微生物が互いに付着して2つの細胞間に橋を架けてDNAを交換する。 この水平伝播は生物系統の特定や種の概念を定義しにくくする。 生殖細胞は他の生物からの遺伝子を外に留めるので、有性生殖は遺伝子の水平伝播の 優位を下げるのを助けた。 |
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第7章 セルメイト | |||||||||||
微生物の純粋培養 個々の細胞を環境から分離して純粋培養で育てると、例えば、食中毒の解明に役立つ。 例 遺伝子配列決定手法と併せて次のことが判明 ・大腸菌には無害な系統と有害な系統があが、無害でも接合で有害になり得る。 微生物の群落(複合系) しかし、大半の微生物は純粋培養したり遺伝子配列決定したりできない。 そこで微生物生態学者は小さな生物どうしの相互作用を調べるようになった。 自然界の微生物は養分獲得を容易にするために群落(複合系)を作る傾向がある。 微生物は互いに相手の廃棄物を使って自分の生活を維持している。 1つの構成員が他を排除してしまうと崩壊し、勝った構成員も不利益を被る。 微生物の武器(抗生物質など)は侵入者に対する防御に使われることが多い。 複合系は完璧ではないので、環境との間にガスのやりとりがある。 そして大気や海は地球全体の微生物の代謝をつなぐ導線になっている。 地球全体のガスの組成と濃度がなかなか変化しないのは複合系の代謝を統合していることも 1つの理由である。 複合系内部の生物は近いところに暮らしているため遺伝子の水平伝播のチャンスが大きい。 また、構成員間で制御信号が送られるが、この体系をクォラムセンシングと呼ぶ。 これにより細胞内の遺伝子の表現を変える機能があり行動も左右することがある。 例 魚の発光器官に棲む発光細菌は集団の密度が高まると光る。これは細胞の密度が高く なると特定の遺伝子のスイッチがはいるからである。 他にも様々な機能のスイッチを入れたり切ったりする。 |
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内部共生 2つの細胞のうち一方が他方の中に収まる共生的連合。 比較的ありふれているが確実に細胞小器官にまでなった例はミトコンドリアと葉緑体のみである。 真核生物 宿主は古細菌。紅色非硫黄光合成細菌のようなものを取り込み、さらに藍藻類を取り込んだ。 この2つがミトコンドリアになり、スーパーチャージャーになった。 真核生物は栄え細胞内、間の信号を発達させやがて多細胞複合系(植物、動物)に進化した。 |
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第8章 不思議の国の拡大 | |||||||||||
動植物は微生物に比べて、生殖が遅く、代謝の範囲も限られており、環境の変化に対する 適応のしやすさも劣るのに進化できた。 動植物が進化した時期(化石、分子時計から分かったこと) 18億年前〜15億年前:単細胞真核生物登場 7億年前:動物の登場。エディアカラ紀の開始と一致。 5億8000万年前:多細胞生物登場、やがてカンブリア爆発へ。 カンブリア爆発は多くの新しい動物の体制が進化した時期である。 多細胞動物の条件 動力源:酸素。(ミトコンドリアで処理) 酸素濃度が増えることが条件 植物プランクトンが真核生物となり沈みやすくなり有機物が隔離され酸素が増えた。 17億年前頃には2度目の酸素増加。動物の進化した時は1〜5%と推測。 接着剤:コラーゲンとインテグリン 細胞機能の多様化:幹細胞から分化。微生物での進化を借用。 有性生殖:生殖細胞は半数の遺伝子情報 |
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細胞の発達と組織のための情報体系は複雑 微生物のクォラムセンシングと似ている。 細胞内の遺伝子の転写を導く一群の分子(転写因子)が進化した。 動物ではホメオボックス(ホックス)遺伝子の集合が胚の発達中に多くの遺伝子のスイッチ をオンオフする。 植物では別の転写因子群が進化。例えばMADSボックス遺伝子。 動植物は共通のミトコンドリアを持つがボックス遺伝子は別々 |
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動物を生んだ淘汰圧 エディアカラのカイメンの進化は多細胞生物になる次のような利益の予兆 大量な水の利用による効率的な捕食、酸素の供給、自給自足的かつ捕食されにくい 動物の体制変化 違って見えても共通の基本原理(=コアとなるナノマシンは共通) 微生物より燃料となるものが少ないが、次のようなメリットを持っている。(微生物由来) 長距離運動性:筋肉を動かすアクチン、ミオシンのようなものも遺伝子は鞭毛に由来 感覚系:微生物が光りセンサーを進化させていた。 神経系と脳の形成:微生物のクォラムイセンシングという基礎の上に成り立っている。 惑星規模での共生 陸生植物は緑藻類の一群に由来し、4億5000万年前に上陸開始。接着剤はセルロース。 植物が死ぬと土壌となったり、海底の堆積物となった。 酸素濃度は3億5000万年前には35%になり、動物の上陸が始まった。 甲殻類から昆虫が進化、魚類から両生類、爬虫類やがては恐竜、哺乳類が進化した。 これにはガス交換を体内で行うように進化する必要があり、循環系も発達した。 動物はエネルギーを光合成する生物に頼っている。 食物連鎖が必要となる。連鎖の階段を上がるごとに栄養レベルの10%しか使えない。 このような中、競争力ある進化が進み、相互作用も複雑になった。 生物は常に進化している。 |
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第9章 壊れやすい種 | |||||||||||
人類と微生物の共生 共存もあれば戦争もある。人類の利点の1つは言語と抽象思考による情報の水平伝播。 共存の例:発酵による酒、チーズ、大豆の加工など 戦争の例:ペスト、腺ペスト、コレラ、チフス等々。感染経路は多い。 感染への対抗策2つ(情報の水平伝播は人類にメリットがあった。) 特定の微生物との接触の最小化:水の処理、下水との接触を減らす、煮沸、アルコール添加 抗生物質:ただし、これに耐える微生物も増えている。 微生物を培養すると「誘導期、指数関数期、停滞期、死滅期」と変遷するが、これは人類にも 当てはまる。 人間の活動の悪影響 石油の発見と利用:燃料の枯渇の恐れ、二酸化炭素の増加と温暖化 肥料の変化:大量の窒素固定 新たなバランスを作らないままバランスが崩れている。 |
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第10章 手を加える | |||||||||||
人類は自然に手を加え続けてきたが、いまや分子生物学の発達により「微生物の遺伝子を 意図して水平伝播させ、それによって進化の流れを変えること」が出来るようになった。 前提となる3つの発見 遺伝子情報を運ぶのはDNAである(以前はタンパク質と思われていた) DNAの構造(二重螺旋) 遺伝子符号の解明(ヌクレオチド3つで1つのアミノ酸) ヒトゲノムの配列を決定するプロジェクト タンパク質の配列が分かってもDNA配列は特定できない。 しかし、DNAをばらして電場にかけることで順番を特定できるようになった。 ヒトゲノムが解明されると、遺伝子の中の32億以上ある塩基対のうち、タンパク質を符号化 しているのは1.5%(2万)しかないと分かった。 その後、DNA配列の決定は自動化されコストも飛躍的に下がった。 新たな部品も作れるようになった。 ただし、このような行為の結果を理解せずに進めている。 コアとなるナノマシンの理解が先決では? |
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第11章 火星の微生物、金星の蝶? | |||||||||||
地球外生命の存在を探る努力は続いているが、明確な証拠はまだない。 |